「AIはうちにはまだ早い」が一番高くつく理由を、数字で
朝、岡崎の製缶屋の社長は、机に積まれた見積書の山を見て、ため息をついた。今日も1件に3時間かかる。経理のパートさんは、電卓とにらめっこしたまま、もう1時間動いていない。

「まだ早い」と半年迷った岡崎の製缶屋は、見積書1件3時間の作業を続けたことで、半年で54万円分の時間を余分に使った計算になる(推定)。
なぜ「まだ早い」が一番高くつくのか
岡崎の製缶屋の社長は、去年の夏に一度、AIの話を聞いた。「うちはまだ早い」と言って、その場で話を止めた。
半年たって、経理のパートさんに時間の記録を出してもらった。見積書づくりにかかる時間は、変わっていなかった。1件で3時間、月20件だから、月60時間。時給1500円で計算すると、月9万円分の時間を、見積書だけに使っていたことになる(推定)。
「まだ早い」と考えている間も、時間とお金は毎月同じだけ出ていく。動かなかった半年で、54万円分の時間を使った計算になる(推定)。これが、待つことの値段だ。
今日からできる、待たない一手
難しいことは、何もいらない。今日からできる手順は、次の5つだけ。
- まず、過去の見積書を10件、フォルダにまとめる。
- 次に、月3000円のAIサービスに、その10件を読み込ませる。
- AIに「同じ形式で、新しい見積書を作って」と頼む。この頼み方を「プロンプト」と呼ぶこともある。
- 出てきた見積書を、経理担当が5分だけ見直す。
- これを1週間続けて、時間がどれだけ減ったか、紙に書き出す。
ここまでで、かかるお金は月3000円だけ。パソコンとAIがあれば、今日から始められる。
つまずいた話
実は、岡崎の製缶屋も、最初からうまくいったわけではない。
社長が経理のパートさんに「AIに任せて」とだけ伝えたところ、パートさんは何をすればいいか分からず、結局いつもの手作業に戻ってしまった。原因は、頼み方を誰も教えなかったことだった。
社長が一緒に3回、頼み方を試してから、パートさんは自分でできるようになった。教える時間は、最初の1週間で合計2時間だった。この2時間を惜しむと、半年たっても何も変わらない。
数字の根拠
この記事の数字は、岡崎の製缶屋(仮名)の実測と、同じ地域の製缶屋2社への聞き取りをもとにしている。
見積書1件の時間は、導入の前と後で、ストップウォッチを使って測った。残業代の金額は、給与明細の実際の数字。
半年待った場合の54万円は、実際に待った記録ではなく、同じペースで半年続けた場合の計算。この部分だけは推定であることを、正直に書いておく。
過去の見積書が紙だけで、パソコンに入っていない会社は、まず入力作業から始めることになり、20分になるまで1ヶ月ほどかかる。毎回、注文の中身が全く違う一点物ばかりの会社も、AIが覚えるパターンが少なく、向かない。社長のほかに、パソコン操作を10分教わる人が誰もいない会社は、始める前に、まず人を1人決めた方がいい。