請求書チェック半日→1時間。経理2名の部品商社が変わるまで
月末の午後、愛知県内にある部品商社の事務所。経理の机の上には、取引先から届いた請求書の束と、発注の記録を印刷した紙が並んでいます。2人の経理担当は、これから夕方まで、その2つを1枚ずつ見比べる作業に入るところでした。

請求書と発注の記録の見比べに半日近くかかっていた部品商社が、AIによる自動の突き合わせに変えたところ、月末のチェックは1時間程度で終わるようになりました。金額のケタの見間違いによる転記ミスは、この半年ゼロ。かかっているお金は、AIの利用料の月4,000円だけです。
なぜ、見比べる仕事に半日かかっていたのか
部品を仕入れて売る商社では、毎月、取引先から請求書が届きます。その金額が正しいかどうかは、自社の発注の記録と照らして初めて分かります。この会社では経理2名が、届いた請求書を1枚ずつ手に取り、発注の記録の束から相手を探し、金額と数量を見比べていました。
時間を食っていたのは、実は「見比べる」ことより「探す」ことでした。請求書は取引先ごとに書式がバラバラで、日付の書き方も品名の並びも違います。1枚ごとに、対応する発注の記録を探し、数字を一度頭に覚えて、別の紙と見比べる。この「覚えて、見比べる」動きが、ケタの見間違いのもとでした。実際、金額のケタを見間違えて転記をやり直すことが、月に1〜2回起きていました。
しかもこの作業は月末に集中します。疲れがたまる時期に、一番間違えやすい作業が積み上がる。半日近くかかるこのチェックの間、経理の他の仕事は全部止まっていました。
きっかけは、月末に止まった仕事
変わるきっかけは、ある月末でした。請求書のチェックに時間を取られ、支払いの準備が後ろ倒しになり、経理の仕事が丸ごと詰まってしまったのです。社長と経理2名で話し合い、「人を増やすか、やり方を変えるか」の二択になりました。先に試したのは、やり方を変える方でした。
選んだのは、AIに請求書を読み込ませて、発注の記録と自動で見比べてもらう形です。仕組みは単純で、届いた請求書をAIに読ませると、対応する発注の記録を探し出し、金額や数量が「合っている」か「合っていない」かを仕分けてくれます。
いきなり全部は任せませんでした。最初は一部の取引先の分だけで試し、AIの読み取りの癖と、仕分けの当たり外れを確かめてから、少しずつ広げていきました。
経理2名は「チェックする側」に回った
形が変わると、経理2名の役目も変わりました。今までは自分の目で1枚ずつ照らす「作業する側」でしたが、今はAIが出した結果を確かめる「チェックする側」です。毎月の流れはこうなりました。
- AIが「合っている」と仕分けたものは、一覧をざっと見て通す。
- AIが「合っていない」と仕分けたものだけ、元の請求書と発注の記録を人の目で確かめる。
- 支払ってよいかの最後の判断は、必ず人が下す。ここだけは機械に任せない、と決めています。
この形にしてから、月末の請求書チェックは1時間程度で終わるようになりました。ケタの見間違いによる転記のやり直しは、この半年で一度も起きていません。数字を頭に覚えて打ち直す場面そのものが、なくなったからです。
空いた時間の使い道も変わりました。支払いの予定を月末ぎりぎりではなく早めに組めるようになり、社長からの資金繰りの相談にも、経理が時間を割けるようになりました。
つまずいた話:先に見つかったのは、自分たちの穴だった
順調に聞こえますが、最初の月はほとんど時間が減りませんでした。理由は2つあります。
1つ目は、請求書の書式のバラバラ問題です。取引先によって請求書の形がまったく違い、読み取りが安定しない取引先がいくつかありました。その分は結局、人が今までどおり見比べることになりました。読み取りにくい書式の取引先が数社(推定)残っており、この分は今も人の目で確かめています。
2つ目の方が、こたえました。AIが「合っていない」と仕分けたものを調べていくと、間違っていたのは請求書ではなく、自社の発注の記録の方だったのです。発注したのに記録を入力し忘れていた分が次々と見つかり、最初の月はその後始末に追われました。
つまり、今までのチェックは「記録に穴があっても気づかないまま通っていた」ということです。悪い話のようですが、経理2名は「これが一番の収穫だった」と言います。AIとの突き合わせは、相手の請求書だけでなく、自分たちの記録の正しさも一緒に試されるものでした。
数字の根拠
この記事の数字が、どう測ったものかを書いておきます。
- 請求書チェックの時間(半日→1時間)。導入後の「1時間程度」は、月末のチェック作業の始めと終わりの時刻を記録した実測です。導入前の「半日近く」は、当時の予定表と経理2名の記憶によるおおよその値なので、幅のある書き方にしています。
- 転記のミス(月2件→0件)。導入前は、転記をやり直した記録を数えると月に1〜2件(多い月で2件)ありました。導入後は、半年間の記録でゼロ件です。感覚ではなく、直しの記録を数えた実績です。
- かかっているお金(月4,000円)。AIの利用料の実費で、請求された金額そのままです。機械や道具の買い足しはしていません。
この形は、請求書と見比べる相手、つまり自社の発注の記録がきちんと残っていて初めて成り立ちます。発注を電話と紙のメモだけで済ませている会社では、AIが照らす相手がなく、先に記録の付け方を整えるところから始める必要があります。また、届く請求書が月に数枚しかない会社では、月4,000円を払うより人の目で見た方が早いです。最後の確認をする人を置けない会社にも、このやり方はすすめません。